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[研究成果] 鐘巻班の研究がNature Communications誌に掲載されました!

2020.11.11

Yesbolatova A, Saito Y, Kitamoto N, Makino-Itou H, Ajima R, Nakano R, Nakaoka H, Fukui K, Gamo K, Tominari Y, Takeuchi H, Saga Y, Hayashi K, Kanemaki M. The auxin-inducible degron 2 technology provides sharp degradation control in yeast, mammalian cells, and mice. Nature Communications , 11: 5701 (2020)

プレスリリースはこちらからダウンロード出来ます。


The auxin-inducible degron 2 technology provides sharp degradation control in yeast, mammalian cells, and mice

Aisha Yesbolatova1, Yuichiro Saito1, Naomi Kitamoto1,5, Hatsune Makino-Itou1, Rieko Ajima1, Risako Nakano2, Hirofumi Nakaoka3, Kosuke Fukui4, Kanae Gamo5, Yusuke Tominari5, Haruki Takeuchi2, Yumiko Saga1, Ken-ichiro Hayashi4, and Masato T. Kanemaki1

  1. 国立遺伝学研究所
  2. 東京大学薬学部
  3. 佐々木研究所
  4. 岡山理科大学理学部
  5. ファイメクス株式会社

近年、ゲノム編集により遺伝子改変が飛躍的に容易になり、日常的に遺伝子欠損細胞やマウスが作製されて、様々な研究に使われるようになりました。しかしながら、遺伝子の欠損が細胞やマウスの致死を引き起こすケースも多く、その遺伝子の機能を研究できない場合があります。また、遺伝子欠損による影響が、普段は使われていない他のタンパク質により相補されてしまい、タンパク質の機能が見えてこないこともあります。これらの問題を回避するには、標的「タンパク質」を必要な時にのみ、素早く除去することが有効です。

我々のグループは、植物が持つタンパク質分解経路を酵母やヒト培養細胞に導入し、植物ホルモン「オーキシン」を添加することで、標的タンパク質を分解する「オーキシンデグロン(auxin-inducible degron: AID)法」を開発していました(Nishimura et al. Nat Meth., 2009; Natusme et al. Cell Rep., 2016)。すでにAID法は世界中の細胞生物学研究において使われています。しかしながら、従来のAID法はオーキシンを添加しなくてもデグロンを付加した標的タンパク質が若干分解されること、分解誘導する際に必要なオーキシン濃度が高いことが問題でした。また、これらの問題もあり、これまで誰もAID法をマウス個体に応用することに成功していませんでした。

AID法はTIR1、オーキシン(リガンド)、デグロンタグの三つから構成されます。我々のグループは、AID法と植物生理学研究分野におけるオーキシン分解経路の研究をもとに、オーキシン結合部位に変異を導入した「変異TIR1」とオーキシン類似化合物「5-Ph-IAA」を利用する「AID2法」を開発しました。変異TIR1は、化合物を添加しない状態でタンパク質を分解する活性を持ちません。さらに、従来の670分の1以下という低濃度の化合物により、変異TIR1は活性化されてタンパク質分解を誘導します。これにより、標的タンパク質は普段は影響を受けることなく、1 µM以下の低濃度5-Ph-IAAで分解誘導することが可能になりました。さらに従来のAID法に比べて分解に必要な時間もより短くなりました。また、このAID2法が出芽酵母、ヒト培養細胞、マウス神経細胞において実際に機能すること、さらに、マウス個体においても、5-Ph-IAAを腹腔注射することにより、AID2法が機能することを示しました。これらの結果は、細胞生物学研究へのオーキシンデグロン法の活用を一層加速し、さらにこれまでオーキシンデグロン法が活用できなかったマウス個体を使った研究に波及効果を与えるものです。

AID2法により酵母や培養細胞を用いた基礎研究がより一層進むことが期待されます。また、マウスでAID2法が活用可能になったことにより、マウス個体を利用した様々な基礎研究に波及効果があると考えられます。さらに、病態マウスの作出や創薬開発においてもAID2が役立つことが期待されます。今後はマウス以外の動物個体に応用されて、タグを利用したプロテインノックダウンの主要技術の一つとなることが予想されます。