あいさつ

       

 平成から令和へと改元する年に、新学術領域研究「非ゲノム情報複製」領域を発足することになりました。多細胞生物は多様な性質を持った細胞集団から構成されています。この多様な細胞性質は個々の細胞の持つ「ゲノム」と「非ゲノム」によりコードされる遺伝情報により規定されています。多細胞生物体を形成・維持するためにはこれら多様な性質を持つ細胞は、それらの性質を保ったまま増殖する必要があります。そのためには「ゲノム」および「非ゲノム」によりコードされた遺伝情報は細胞増殖過程において正確に複製されなければなりません。これまでの長年にわたる「ゲノム情報複製」研究の成果は、ゲノム複製機構そのものの解明による分子生物学の進歩のみならず、腫瘍学や発生学などの多くの生物学分野に大きな貢献を果たしてきました。他方、「非ゲノム情報」がどのように複製され、またそれらの分子機構が細胞機能をどのように制御するのかほとんど分かっておらず、これらを対象とした研究も緒に就いたばかりです。
 「ゲノム情報」は主にDNAの塩基配列により規定されていますが、「非ゲノム情報」はDNAメチル化やヒストン修飾、非コードRNAや高次クロマチン構造、さらには広義の転写因子ネットワークなどの多階層にわたる因子と、これらの相互作用により規定されています。これらの複雑さに加え、非ゲノム情報を解析する技術も未だ十分とは言えません。本領域は領域内の連携を強化することでこれらの困難を克服し、多細胞生物体の基本原理である“多様な細胞形質を生み出し、それらを安定的に維持しながら細胞複製する仕組み”の解明を目指します。また細胞分化のように細胞形質を変換する過程において、「非ゲノム情報」複製機構がどのように制御されるのかについても明らかにしていきます。
 令和を迎えた新たな時代の幕開けに、生物学分野において「多細胞生物の基本原理」という新たな1ページを加えるべく領域の総力をあげて取り組んで参ります。本領域の発展にご支援、ご協力いただきますようお願い申し上げます。

領域代表者:中西 真(東京大学医科学研究所・教授)