我々ヒトは約37兆2000億、270種類の細胞から構成されていると考えられています。これらの細胞は基本的に全て同じゲノム情報を持っていますが、様々異なる形質を示します。これらの異なる形質は非ゲノム情報により規定されています。これまでのゲノム情報研究は、DNA複製機構や染色体分配機構を中心に解明が進み、多くの成果を上げてきました。これらの研究成果は生化学・分子生物学のみならず、腫瘍学や発生学などの発展に大いに寄与してきました。非ゲノム情報も、細胞は形質を分裂後に娘細胞に正確に伝えることから、一定の堅牢性を賦与された遺伝情報として働き、分裂に伴い正確に複製されると考えられます。しかしながら、ゲノム情報に比較すると不安定であり、発生シグナルや外的ストレスなどにより変化する可塑性も併せ持つことから、多細胞生物体は同じゲノム情報を持ちながらも異なる形質を示す細胞種を生み出すことができると考えられます。このように非ゲノム情報の複製は多細胞生物体を構成する最も重要な分子基盤と考えられますが、その本体は非ゲノム情報の多階層性・複雑性のためほとんど分かっていません。本領域はこの命題に真正面から向き合います。すなわち、非ゲノム情報複製機構の全貌を明らかにし、 それらが細胞分裂や減数分裂に伴っておこる細胞の分化や自己複製などの生命現象をどのように制御するかを解明することを目的とします。