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[研究成果] 鵜木(中西班)と古関班の領域内共同研究がSci Rep誌にアクセプトされました!

2020.09.30

Unoki M., Sharif J., Saito Y., Velasco G., Francastel C., Koseki H., Sasaki H. CDCA7 and HELLS suppress DNA:RNA hybrid-associated DNA damage at pericentromeric repeats. Sci. Rep., 10, 17865, (2020)


CDCA7とHELLSはペリセントロメア反復配列のDNA:RNAハイブリッドに起因するDNA損傷を抑制する

〜DNAメチル化が染色体融合を抑制する詳細な分子機構を解明〜

[研究の内容]

Immunodeficiency centromeric instability facial anomalies (ICF)症候群は稀な先天性の免疫不全病です。本症候群では染色体のセントロメアとペリセントロメアを構成する反復配列の低メチル化が認められ、これらの領域が不安定化して分枝染色体と呼ばれる特徴的な染色体が現れます(図1)。このことから、稀な疾患ではあるものの、エピジェネティクス及び染色体研究に携わる研究者に注目されてきました。ICF患者の約半数はDNMT3B遺伝子に変異があり、およそ30%の患者はZBTB24遺伝子に変異を持っています。2015年、著者らは残りの患者の大部分はCDCA7遺伝子もしくはHELLS遺伝子に変異を持つことを報告しました(Thijssen et al., Nat Commun., 2015)。なおZBTB24はCDCA7の転写活性化因子で、CDCA7とHELLSはクロマチンリモデリング複合体を形成することが報告されています。

先行研究で、著者らはCDCA7とHELLSがKu80の二本鎖DNA切断(Doble strand break: DSB)部位への集積を促進し、非相同末端結合(Non-homologous end joining:NHEJ)に関与することを報告しました(Unoki et al., J. Clin Invest., 2019)。DSBは細胞周期のG1期にはNHEJによって主に修復され、DNA複製後(S期〜G2/M期)の姉妹染色分体が存在する状況下では、相同組替え(homologous recombination: HR)によって主に修復されます。ICF患者に特徴的な分枝染色体は、NHEJの破綻に伴い、セントロメア・ペリセントロメア反復配列に生じたDSBがHRによって修復される際に、異なる染色体間で組替えが起こり、その結果生じた異常なホリデイジャンクションが解消されないことに起因する可能性が考えられます。しかしながら、CDCA7及びHELLSの細胞内局在はセントロメア・ペリセントロメアに限局されたものではないため、なぜ患者でこの領域が特に不安定化するのかの説明がつきませんでした。

本研究で、著者らは、CDCA7欠損細胞株では、維持DNAメチル化に関与するDNMT1及びUHRF1の新規DNA合成鎖上への集積が減少していること、Rループ(DNA:RNAハイブリッドと一本鎖DNAからなる三重鎖構造)の解消や防止に関与するDDX21やFACT複合体構成タンパク質の集積も減少していることを見出しました。Rループには、生理的に形成されるRループと、異所性に形成されてDNA損傷を引き起こす有害なRループがあります。著者らは、ICF症候群原因遺伝子欠損細胞株では、低メチル化したペリセントロメア反復配列から異所性の転写が起こっていること、当該領域にRループが蓄積していることを見出しました。またDNA:RNAハイブリッドを分解するRNASEH1を過剰発現すると、DNA損傷が減少することも見出しました。よって現在著者らは、ICF症候群原因遺伝子欠損細胞株では、DNMT1/UHRF1複合体による維持DNAメチル化が領域特異的に破綻し、その結果生じた低メチル化領域から異所性の転写が起こり、これが有害なRループ形成を引き起こし、DNA損傷蓄積の原因となるのではないかと考えています(図2)。

残された課題として、著者らはICF症候群に認められる領域特異的なDNA低メチル化機構を解明したいと考えています。近年、ICF患者で低メチル化している領域と、DNMT1/UHRF1複合体がヒストンH3のユビキチン化を介して維持DNAメチル化をしている領域は、共に後期DNA複製領域であることがわかってきました(中西班の研究成果:Nishiyama et al., Nat Commun., 2020)。DNMT1はヌクレオソームに巻き付いたヘミメチル化DNAを基質として好まないため、このような領域の維持DNAメチル化にはCDCA7/HELLS複合体によるクロマチンリモデリングが必要とされる可能性が高いと考えています。本研究で示されたCDCA7欠損細胞株で、DNMT1及びUHRF1の新規DNA合成鎖上への集積が減少しているという結果は、本仮説を支持しています。

図2 ICF患者における分枝染色体生成機構のモデル