[研究成果] 落合班の研究がNat Commun誌に掲載されました!
2022.12.21
Ohishi H, Shimada S, Uchino S, Li J, Sato Y, Shintani M, Owada H, Ohkawa Y, Pertsinidis A, Yamamoto T, Kimura H, Ochiai H. STREAMING-tag system reveals spatiotemporal relationships between transcriptional regulatory factors and transcriptional activity. Nat Commun. 13:7672. (2022). doi: 10.1038/s41467-022-35286-2
遺伝子の活性化をリアルタイムで検出する 「STREAMING-Tag」システムを開発
遺伝子からRNAへの転写を担うのはRNAポリメラーゼIIという酵素です。遺伝子が転写される場合、連続的に転写されるON状態と、ほとんど転写されないOFF状態が断続的に切り替わることが最近わかってきました。これまで、ON状態の遺伝子領域の周辺に、転写に関連する因子が集まる様子が観察されていましたが、OFF状態でのタンパク質因子との関係はわかっていませんでした。
そこで本研究では、遺伝子の機能を阻害することなく、特定遺伝子の細胞核内局在および転写状態を可視化できる技術、Spliced TetO REpeAt, MS2 repeat, and INtein sandwiched reporter Gene tag (STREAMING-tag)システムを確立しました(図A)。従来の遺伝子の転写活性を計測する方法では、ON状態のみを検出するため、OFF状態では遺伝子が細胞内のどこにあるのか可視化できませんでした。本技術ではOFF状態でも遺伝子の場所を把握できるため、OFF状態においてどのようなタンパク質因子が近傍に集積しているのかを調べることができます。また、STREAMING-tagシステムでは、転写が開始されてまもなくの状態の遺伝子の細胞核内局在を把握することができます。従来技術で用いられている「タグ」はタンパク質の翻訳に悪影響を与えることが知られており、遺伝子の最も下流の最終的にタンパク質に翻訳されない領域に挿入されることが一般的でした。そのため、実際にRNAポリメラーゼIIによって転写が開始してから、「タグ」によって転写活性が可視化されるためには時間的なズレがあり、実際に転写開始した際の遺伝子周辺の状況を把握できないという問題がありました。STREAMING-tagでは、挿入による遺伝子機能の阻害効果を最小限に抑えることで、RNAポリメラーゼIIによって転写が開始される領域周辺に挿入することができるため、転写がONになった直後の様子を観察できます(図B)。
本システムを適用したマウス胚性幹細胞で、RNAポリメラーゼII(RPB1)と、転写活性化に重要な役割を担っているコアクティベーター(BRD4)、メディエイター(MED19、MED22)を蛍光タンパク質で標識し、生細胞イメージングを実施しました。その結果、RPB1とBRD4タンパク質は、ON状態の遺伝子の近傍でのみ集積することがわかりました(図C、D)。一方で、MED19およびMED22に関しては、ON状態OFF状態関係なく、遺伝子の近傍に集積することが明らかとなりました。これら因子のクラスター化が動的な転写を制御している可能性があります。また、MED19およびMED22に関しては、転写活性に関わらず遺伝子の近傍でクラスターを形成していました。これらは、OFF状態において、新たにRPB1やBRD4のクラスターを形成するための足場となっている可能性が考えられます(図E)。
本研究では、マウス胚性幹細胞に発現する遺伝子の転写に着目しましたが、STREAMING-tagシステムは様々な細胞種や遺伝子、生物種に応用が可能です。本技術を利用することによって、複雑で動的な転写発現制御の基本原理を明らかにすることが可能となり、生物の発生や分化、また、様々な疾患発症機構の解明などに役立つことが期待されます。