組織・研究内容

研究課題名

哺乳類の正常発生を支える非対称性DNAメチル化維持機構の解明

研究代表者

松崎 仁美

Hitomi Matsuzaki

筑波大学生命環境系・助教

研究内容

哺乳類の精子と卵は高度に分化した細胞で、そのエピゲノムは互いに大きく異なります。この非対称性は、受精後、細胞が全能性を獲得するとともに解消され(リプログラミング)、両親から受け継がれる一対の遺伝子のほとんどは、子供において同等に発現します。しかし、一部の遺伝子では、生殖細胞で確立された非対称的なエピゲノムが、リプログラミングを免れて維持されるため、父方、または母方アリルのみでしか発現がおこりません。この現象は「ゲノム刷り込みgenomic imprinting」と呼ばれ、個体の正常な発生・維持に必須です。片アリル性発現の分子基盤として、転写調節領域(imprinting control region; ICR)のアリル特異的なDNAメチル化修飾が見いだされ、その生殖細胞での確立と、受精後の維持に必要なDNAメチル化酵素群もそれぞれ明らかにされてきました。一方で我々は、マウスIgf2/H19刷り込み遺伝子座ICRの解析の過程で、同領域には生殖細胞でDNAメチル化以外のエピジェネティック・マークも書き込まれ、それをもとに受精後でもアリル特異的に新規DNAメチル化されうることを見いだしました。また、この新規メチル化に必要な制御シス配列を決定して欠損したところ、受精後にメチル化と正常発生が失われました。したがって、同活性は、正常発生を支えるための、エピゲノム情報の保護機構として不可欠のシステムであると考えられます。そこで本研究では、生殖細胞でのDNAメチル化以外のマーキングと、受精後の刷り込み新規DNAメチル化を制御する因子を探索し、その作用機序を解析することで、非対称性DNAメチル化状態を正しく維持するための分子メカニズムの解明を目指します。

主な論文

  1. Matsuzaki, H., et al., *Tanimoto, K. (6人中1番目) Recapitulation of gametic DNA methylation and its post-fertilization maintenance with reassembled DNA elements at the mouse Igf2/H19 locus. Epigenetics & Chromatin 13, 2 (2020)
  2. Matsuzaki, H., et al., *Tanimoto, K. (7人中1番目) Synthetic DNA fragments bearing ICR cis elements become differentially methylated and recapitulate genomic imprinting in transgenic mice. Epigenetics & Chromatin 11, 36 (2018)
  3. Matsuzaki, H., et al., *Tanimoto, K. (9人中1番目) De novo DNA methylation through the 5′-segment of the H19 ICR maintains its imprint during early embryogenesis. Development 142, 3833-3844 (2015)
  4. †Okamura, E., †Matsuzaki, H., et al., *Tanimoto, K. (†equal contribution) (6人中2番目) The H19 imprinting control region mediates preimplantation imprinted methylation of nearby sequences in yeast artificial chromosome transgenic mice. Mol Cell Biol 33, 858-871 (2013)
  5. Matsuzaki, H., et al., *Tanimoto, K. (4人中1番目) CTCF binding is not the epigenetic mark that establishes post-fertilization methylation imprinting in the transgenic H19 ICR. Hum Mol Genet 19, 1190-1198 (2010)