研究課題名
エピゲノム情報としてのグアニン4重鎖の形成と複製開始における役割と生物学的意義
研究内容
ゲノム情報の媒体であるDNAは、大部分がB型DNAと総称される右巻き二重らせん構造ですが、それ以外の形態である非B型DNA構造の存在が古くから知られています。中でもグアニン4重鎖(G4)構造は、生物種を問わず普遍的に存在します。最近、その細胞内での存在も証明され、生物学的機能も次々と報告されています(図)。G4はゲノムに内蔵されるが、配列ではなく、形成する核酸形態が重要な役割を果たします。また、G4は転写や複製に連動して一過性に形成され、とりまくイオン強度、分子混雑度、エピゲノム環境などにその安定性は大きな影響を受けます。また、G4を破壊する酵素(G4ヘリカーゼ)も存在します。従ってG4の形成と崩壊は、生体内でダイナミックに変動している可能性があり、これまで見逃されている重要な非ゲノム情報であると言えます。G4とDNA複製の関係は、ほとんど知られていませんでしたが、数年前にヒトを含む高等生物の複製起点の近傍に高い頻度でG4形成配列が存在することが明らかとなり、G4が複製開始に役割を果たす可能性が示唆されました。またG4は、形成されることにより複製フォーク進行を阻害し、遺伝的不安定性を増加させる可能性、また繰り返し構造の増幅などによるその異常な形成が疾患の原因になることも知られています。私たちは長年にわたるDNA複製の制御機構の研究から、G4が複製を抑制するクロマチン形成の拠点として機能することを発見しました。また、大腸菌染色体複製をモデルとした研究から、DNA-RNA ハイブリッド上に形成されるG4が複製開始に重要な役割を果たす可能性を見出しました。本研究では、非ゲノム情報としてのG4の細胞内でのダイナミックな形成が、DNA複製開始をどのように制御するか、またその存在がゲノムの安定な維持継承にどのような影響を及ぼすかに関して解析し、生物種を超えた普遍的かつ始原的な複製機構と、その生物学的意義の解明を目指します。
G4(グアニン4重鎖)の多様な機能:G4は多様な形態、トポロジーでDNAおよびRNAあるいはDNA-RNA hybrid上に形成され、核酸が関与する多種多様な反応を制御します。本研究では、特にDNA-RNA hybrid上に形成されるG4構造上での複製開始メカニズムの解明を目指します。
主な論文
- Kanoh, Y., et al., *Masai, H. (11人中11番目) Rif1 binds to G-quadruplexes and suppresses replication over long distances. Nature Struct Mol Biol 22, 889-897 (2015)
- Yang, C-C., et al., *Masai, H. (11人中11番目) Claspin recruits Cdc7 kinase for initiation of DNA replication in human cells. Nature Commun 7, 12135 (2016)
- *Masai, H., et al. (7人中1番目) Molecular architecture of G-quadruplex structures generated on duplex Rif1 binding sequences. J Biol Chem 293, 17033-17049 (2018)
- Kobayashi, S., et al., *Masai, H. (7人中7番目) Both a unique motif at the C terminus and N-terminal HEAT repeat contribute to G4 binding and origin regulation by Rif1 protein. Mol Cell Biol 39(4), pii: e00364-18 (2019)
- Yang, C-C., et al., *Masai, H. (4人中4番目) Cdc7 activates replication checkpoint by phosphorylating the Chk1 binding domain of Claspin in human cells. E-life 8, pii: e50796 (2019)