研究課題名
染色体末端特異的凝縮構造による非ゲノム情報維持機構
研究内容
真核生物の線状染色体の末端にはテロメアと呼ばれるドメインが存在し、染色体末端構造の維持、細胞老化タイミング制御、細胞分裂期の染色体動態制御など、生命維持に重要な役割を果たしていることが知られています。そのテロメアに隣接して“サブテロメア”と呼ばれるドメインが存在します。サブテロメアは、長大な重複配列がモザイク状に存在することによる様々な実験手法的困難から、その機能がまだほとんど明らかにされていない“染色体の未開の地”です。これまでに私たちは、分裂酵母のセントロメアタンパク質Sgo2が、細胞周期の間期特異的にサブテロメアにリクルートされ、高度に凝縮したknob構造の形成を誘導することを発見しました。しかし、Sgo2の具体的な作用機序やknobの細胞内機能については多くの謎が残されています。一方、ヒトと進化的に最も近いとされる大型類人猿(チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータン)は、興味深いことにヒトとは大きく異なる染色体末端構造をもちます。ヒトには存在しないStSatと呼ばれる繰り返し配列がテロメアとサブテロメアの間に存在します。StSatもknobと同様に高度に凝縮したクロマチン構造を形成することが示唆されていますが、その形成機構や機能は不明です。そこで本研究では、染色体末端近傍領域の特徴的な凝縮構造がどのように形成され、どのような機能を果たしているのかを明らかにすることを目的とします。本研究により、真核生物のサブテロメア凝縮構造の共通点は何か、ヒトはサブテロメア凝縮構造を失ったことによってどうなったのか、という疑問の解明につながることが期待されます。
主な論文
- Inoue, H., *Kanoh, J., et al., (4人中4番目) Casein kinase 2 regulates telomere protein complex formation through Rap1 phosphorylation. Nucleic Acids Res 47, 6871-6884 (2019)
- Oizumi, Y., *Kanoh, J., et al., (3人中3番目) Alpha satellite DNA-repeat OwlAlp1 forms centromeres in Azara’s owl monkey. Genes Cells 24, 511-517 (2019)
- Tashiro, S., *Kanoh, J., et al., (5人中5番目) Subtelomeres constitute a safeguard for gene expression and chromosome homeostasis. Nucleic Acids Res 45, 10333-10349 (2017)
- Tashiro, S., *Kanoh, J., et al., (12人中12番目) Shugoshin forms a specialized chromatin domain at subtelomeres and regulates transcription and replication timing. Nat Commun 7, 10393 (2016)
- Fujita, I., *Kanoh, J., et al., (10人中10番目) Telomere-nuclear envelope dissociation promoted by Rap1 phosphorylation ensures faithful chromosome segregation. Curr Biol 22, 1932-1937 (2012)