研究課題名
クロマチン再構築因子が複製阻害からゲノム安定性を守る機構の解明
研究内容
DNA複製装置の進行はDNA損傷やDNAに強固に結合しているタンパク質など様々な障害によって阻害されます。複製阻害に正しく応答できないと、ゲノム不安定化が起こり癌など多種多様の疾患の原因となります。しかし複製障害はゲノム上のランダムな場所に存在することが多く複製阻害が高頻度で起こる領域がほとんど見つかっていないため、複製阻害応答機構を分子レベルで解明することは困難でした。またDNA複製はクロマチン上で起こることから、クロマチン構造制御因子は複製阻害応答に大きな影響を与えると考えられていますが、その詳細も十分に理解されていません。出芽酵母のrDNA領域は、100コピー以上のrDNA配列が縦列に並んだ巨大クラスターを形成しています。各配列にはリボソームRNA転写ユニットの他に複製開始点と複製阻害点が存在します。S期になるといくつかのrDNA配列から複製が開始しますが、複製装置の進行は複製阻害点で阻害されます。さらにこの複製阻害に正しく応答できないと、rDNAコピー数が変化しやすくなりrDNA領域が不安定になります。このように複製阻害が高頻度で起こりその応答過程での異常をrDNAコピー数変化として容易に解析できるという点で出芽酵母のrDNAは非常にユニークな領域であり、複製阻害応答機構を明らかにするためのモデル領域であると期待できます。先行研究において行ったゲノムワイドスクリーニングの結果、複製と共役したヌクレオソーム形成に関与する因子(CAF-1複合体など)が欠損すると異常なrDNAコピー数変動が起こることが明らかとなりました。そこで(1)ヌクレオソーム再構築因子がrDNA領域の複製に与える影響を調べ、(2)これらの因子が複製阻害応答過程で作用する分子機構を明らかにすることによって、非ゲノム情報複製機構が複製阻害からゲノム安定性を守る分子機構を明らかにしたいと考えています。
主な論文
- Hosoyamada, S., Sasaki, M., Kobayashi, T. The CCR4-NOT complex maintains stability and transcription of rRNA genes by repressing antisense transcripts. Mol Cel Biol 40, e00320-19 (2019)
- Sasaki, M. and Kobayashi, T. Ctf4 prevents genome rearrangements by suppressing DNA double-strand break formation and its end resection at arrested replication forks. Mol Cell 66, 535–545 (2017)
- Saka, K., Takahashi, A., Sasaki, M., and Kobayashi, T. More than 10% of yeast genes are related to genome stability and influence cellular senescence via rDNA maintenance. Nuc Acid Res 44, 4211–4211 (2016)
- Pan, J.; Sasaki, M. (equally contributed) et al. A hierarchical combination of factors shapes the genome-wide topography of yeast meiotic recombination initiation. Cell 144, 719–731 (2011)
- Sasaki, M., Lange, J., and Keeney, S. Genome destabilization by homologous recombination in the germ line. Nat Rev Mol Cell Biol 11, 182–195 (2010)