[研究成果] 宮成班の研究成果がNat Genet誌に掲載されました!
2024.02.15
Ishii S, Kakizuka T, Park SJ, Tagawa A, Sanbo C, Tanabe H, Ohkawa Y, Nakanishi M, Nakai K, Miyanari Y*, Genome-wide ATAC-see screening identifies TFDP1 as a modulator of global chromatin accessibility. Nature Genetics, 2024 DOI:10.1038/s41588-024-01658-1
網羅的なATAC-seeスクリーニングによるクロマチンアクセシビリティ調節因子TFDP1の同定
ヒトのゲノムDNAの大部分は,ヒストンタンパク質群に巻き付いたヌクレオソームと呼ばれる構造をとります。一方で,一部のゲノム領域はヌクレオソーム構造をとらず,裸の状態で存在します。裸のDNA領域は,転写因子などのタンパク質がDNAに直接結合しやすい状態にあります。このような,タンパク質のゲノムDNAへの結合(アクセス)のしやすさの度合いを,アクセシビリティと呼びます。ゲノムDNAへのアクセシビリティは,遺伝子発現やDNA複製などのさまざまなゲノム機能を制御するための重要な働きをしています。そのため,アクセシビリティの異常は,がんを含める多様な疾患と結びついています。一方で,アクセシビリティを制御する分子メカニズムの全体像は未だに明らかになっておりません。そこで,本研究では,CRISPRスクリーニングを用いて,アクセシビリティの制御に関与する遺伝子をスクリーニングしました。スクリーニングによって同定された遺伝子群の中でも,転写因子であるTFDP1を破壊すると,ゲノム全体のアクセシビリティが顕著に上昇することを見出しました。TFDP1によるアクセシビリティ制御の分子メカニズムを研究する過程で,TFDP1がヌクレオソームの構成因子であるヒストンタンパク質群の転写調節に深く関与していることを見出しました。TFDP1の機能を阻害すると,ヒストンタンパク質の発現量が低下し,ヌクレオソームの量も低下します。それに伴い,裸のゲノムDNA領域の割合が増えるため,ゲノム全体のアクセシビリティが上昇します。さらに本研究グループは,TFDP1阻害によるアクセシビリティ上昇というユニークな現象を技術展開できないかと考えました。CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集および山中因子を用いたiPS細胞リプログラミングには, Cas9や山中因子などのDNA結合タンパク質が,細胞内のゲノムDNAにアクセスする必要があります。しかしながら,ほとんどのゲノム領域はヌクレオソームで覆われているためアクセシビリティが低く,そのことがゲノム編集やリプログラミングを妨げる原因の一つでした。本研究グループは,TFDP1を阻害した細胞では,ゲノムDNAへのアクセシビリティが上昇しているため,Cas9やOct4などのタンパク質が効率よくゲノムDNAにアクセスできることを発見しました。その結果,ゲノム編集およびiPS細胞の作成効率を上げることに成功しました。