[研究成果] 石黒班と丹羽班の共同研究がNat Commun誌に掲載されました!
2023.10.28
STRA8–RB interaction is required for timely entry of meiosis in mouse female germ cells.
Ryuki Shimada, Yuzuru Kato, Naoki Takeda, Sayoko Fujimura, Kei-ichiro Yasunaga, Shingo Usuki, Hitoshi Niwa, Kimi Araki, and Kei-ichiro Ishiguro. Nature Communications 14, 6443 (2023) DOI:10.1038/s41467-023-42259-6
減数分裂の開始と細胞周期のS期進行を同調させる雌性生殖細胞に特異的なメカニズム
島田龍輝, 石黒啓一郎 (熊本大学 発生医学研究所)
男性の場合、精巣では思春期以降になるとほぼ生涯にわたって減数分裂が繰り返されて精子が産生される。それに対して、女性の場合は胎児の一時期に卵巣の中で減数分裂が開始され、排卵が起こるまでいったん長期の休眠状態に入る。女性の卵巣では胎児期の限定された時期に減数分裂に入ることができた生殖細胞によって、生涯にわたって必要とされる生殖可能な卵子の貯蔵数が決まることになるが、女性に特有の減数分裂開始の仕組みは不明とされていた。
本研究ではSTRA8がRBおよびパラログp107と結合することを見出した。RBは主にE2F1, E2F2, E2F3との結合によりS期進行を抑制し、p107はE2F4/E2F5との結合によりG2期進行を抑制することが知られている。本研究ではMEIOSIN との結合は保持したまま、RBおよびp107 には結合できない変異型STRA8(Stra8 delRB)を発現するノックインマウスを作製した。Stra8 delRBマウスはオスの減数分裂は正常であったが、メス特異的に不妊になることが判明した。次に減数分裂開始のタイミングにおけるメス生殖細胞のscRNA-seq解析を行った。その結果、Stra8 delRBマウスのSTRA8陽性細胞ではS期への移行と減数分裂の開始に遅延があることが判明した(図1)。このたった1日程度の遅延ではあるが、Stra8 delRB生殖細胞は減数分裂にエントリーしても、出生前後には死滅してしまうことが示された。
通常の細胞周期においてRBファミリーは転写因子E2Fを抑制するが、RBがリン酸化されると脱離してS期関連遺伝子の発現が脱抑制される。STRA8はE2F からRBを奪うことによってS期関連遺伝子の転写を脱抑制していると推測され、RB を失活へと導く癌ウイルス蛋白質HPV E7, SV40 large T抗原などと似たメカニズムを利用している(図2)。これらの結果からメス生殖細胞では、STRA8-RB相互作用が細胞周期S期への移行と減数分裂プログラムのインストールとを協調する役割があることが示唆された。
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