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[研究成果] 石黒班の研究がiScience誌に掲載されました!

2022.03.17

Tanno N, Takemoto K, Takada-Horisawa Y, Shimada R., Fujimura S, Tani N., Takeda N., Araki K, Ishiguro K. FBXO47 is essential for preventing the synaptonemal complex from premature disassembly in mouse male meiosis. iScience 25(4), 104008 (2022) DOI: 10.1016/j.isci.2022.104008


減数分裂における相同染色体対合に働く新規F-box因子の発見


丹野修宏、竹本一政、石黒啓一郎  (熊本大学・発生医学研究所)


[研究の概要]

熊本大学発生医学研究所染色体制御分野の石黒啓一郎教授、丹野修宏研究員、竹本一政研究員らのグループは、精子の形成に必要な減数分裂をコントロールする新しい遺伝子FBXO47を発見しました。FBXO47遺伝子は減数分裂の際に相同染色体の対合状態を安定化するように働くことや、FBXO47遺伝子に障害が起きると精子が作られず不妊となることを明らかにしました。これまで、精子が作られる際に生じる二価染色体を形成する仕組みの詳細は明らかになっていなかったため、今後の無精子症や精子形成不全を示す不妊症の原因解明などの生殖医療の進展につながる可能性があります。


[ポイント]

  • 精子が作られる際の減数分裂に働く新しい遺伝子FBXO47を特定しました。
  • FBXO47は相同染色体の対合状態の安定化のメカニズムに働くことを発見しました。
  • FBXO47遺伝子に障害が起きると精子が作られず不妊となることを明らかにしました。

[背景]

卵巣や精巣では減数分裂と呼ばれる特殊な細胞分裂が行われて卵子や精子が作り出されます。熊本大学発生医学研究所の石黒啓一郎教授のグループは先行研究で減数分裂のスイッチを入れる遺伝子MEIOSINを発見しています(Ishiguro et al., Dev Cell 2020)。MEIOSINにより数百種類におよぶ精子・卵子の形成に関わる遺伝子が一斉に働くことを明らかにしましたが、それらの中には機能未解明のまま、まだ十分に解明されていない遺伝子が多く残されていました。そして、その一つである正体不明の遺伝子FBXO47は、精巣内での特異的発現パターンやMEIOSINの制御下に置かれている状況証拠から、減数分裂や生殖発生の過程で何らかの重要な働きを担う可能性が示唆されていました。


[研究の内容]

卵巣や精巣では減数分裂の過程で、「相同染色体の対合」と呼ばれる過程によって、父方、母方に由来する2本の相同染色体がペアをなして合体した二価染色体を形成することが知られています。この相同染色体の対合は、減数分裂組換えとよばれるDNA配列情報の交換によって母方DNAと父方DNAとの間で遺伝情報の部分的な交換が行われるために必須のプロセスで、同じ両親から生まれた兄弟姉妹の子どもの間でも微妙に異なる特徴を持つように遺伝的多様性を生み出す仕組みとして働きます。しかしながら、減数分裂の過程で相同染色体の対合を安定に保つために働く因子やそのメカニズムの詳細は不明な点が多く、その機能破綻は不妊症などの生殖医療とも直結する重要な問題でありながらあまりよく解明されていない課題でした。

同グループの先行研究で、減数分裂の開始因子MEIOSINによって数百種類におよぶ精子・卵子の形成に関わる遺伝子が一斉に活性化されることを明らかにしていました。それらの中には機能未解明のまま、まだ十分に解明されていない遺伝子が多く残されていることもわかっていました。今回同グループの丹野修宏研究員、竹本一政研究員らは、そのうちの一つの正体不明の遺伝子FBXO47についてより詳細な解析を行いました。

遺伝子発現の定量解析や発現パターンの解析により、FBXO47遺伝子は精巣内の精母細胞において特異的に発現していることや減数第一分裂の初期のステージで働いていることを突き止めました。さらに質量分析法を駆使した解析により、FBXO47は精母細胞において微量かつ一過的に発現して機能を発揮していることが判明しました。そこで、ゲノム編集*4によりオスのマウスのFBXO47遺伝子の働きをなくした疾患モデル動物を作製して検討を行ったところ、精母細胞における減数分裂の過程で、いったんは見かけ上相同染色体の対合が起きるものの、その対合状態が安定に維持できなくなることが判明しました(図1)。その結果、FBXO47遺伝子を欠損した精母細胞は減数分裂組換えがうまく起こらなくなるため、減数分裂のプロセスを完了できずにやがて死滅してしまうことや、精子形成ができなくなり不妊となることが判明しました(図2)。したがって、減数分裂の過程でFBXO47は「相同染色体の対合」状態を安定に維持するメカニズムに必須の役割を果たしていることがわかりました。なお、FBXO47の働きをなくした卵巣では特に影響は出ないことがわかりました。

図1  FBXO47遺伝子を欠損させると相同染色体の対合状態が不安定化する

図2  FBXO47遺伝子欠損マウスは雄性不妊を示す

今回の成果は疾患モデル動物を用いた研究により検証されたものですが、FBXO47遺伝子はヒトにも存在します。ヒトに見られる不妊症は原因が不明とされる症例が多く、今回の発見は、特に無精子症や精子形成不全を示す不妊症の病態の解明に資するものと期待されます。また、MEIOSINの指令下で働くことが予想される他の機能未解明の遺伝子の働きについてはまだ十分に解明されていません。今後、卵子・精子の形成過程におけるこれら他の遺伝子の働きも同時に解明することで、減数分裂のメカニズムの理解に貢献できると期待されます。