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[研究成果] 石黒班と丹羽班、秋山班の領域内共同研究がNat Commun誌に掲載されました!

2021.05.22

Horisawa-Takada Y, Kodera C, Takemoto K, Sakashita A, Horisawa K, Maeda R, Shimada R, Usuki S, Fujimura S, Tani N, Matsuura K, Akiyama T, Suzuki A, Niwa H, Tachibana M, Ohba T, Katabuchi H, Namekawa S, Araki K, Ishiguro K* Meiosis-specific ZFP541 repressor complex promotes developmental progression of meiotic prophase towards completion during mouse spermatogenesis. Nature Communications 12(1):3184 (2021) DOI : 10.1038/s41467-021-23378-4 (石黒班、丹羽班、秋山班の領域内共同研究)


新規のMEIOSIN 標的遺伝子:

ZFP541転写抑制複合体は減数第一分裂前期において非ゲノム情報の解消に働く


高田(堀澤)幸  石黒啓一郎  (熊本大学・発生医学研究所)


減数分裂の基本メカニズムは雌雄で概ね共通するが、精巣では減数分裂が完了すると引き続きプロタミンへの取り込みや核が高度に凝縮されるなど精子形成に特徴的な発生プログラムが進行する。とりわけ精母細胞では減数第一分裂の終盤になると、大規模なヒストン修飾変化、ヒストンバリアントの置換を伴ってそれまで恒常的に活性化されていた多くの遺伝子の発現が不活性化される(図1)。しかしながら、精子形成過程に先がけて減数分裂仕様の遺伝子発現プログラムを終結させるメカニズムの詳細は不明とされ、世界的にも解明されていない課題であった。

当研究グループでは、以前減数分裂の開始因子MEIOSINを発見した際に、それによって数百種類におよぶ減数分裂関連遺伝子が一斉に活性化されることを明らかにしていた(Ishiguro et al. Dev Cell 2020)。それらの中には機能未解明のまま手付かずの遺伝子が多く残されていることもわかっていた。今回当グループの高田(堀澤)幸助教は、そのうちの一つの正体不明の遺伝子ZFP541についてより詳細な解析を行った。免疫染色およびsingle cell RNA-seq解析から、ZFP541は精巣内では減数第一分裂前期の中盤から円形精子細胞までのステージで核に出現することが明らかとなった(図1)。ゲノム編集によりマウスのZfp541遺伝子を欠損させると、オスの精母細胞はいったん減数分裂を進行するものの減数第一分裂前期の終盤で死滅して不妊となることが判明した(図2)。

なお卵巣においてもZFP541の発現は見られるが、Zfp541欠損マウスのメス妊性に影響は見られなかった。精巣クロマチン画分からのZFP541タンパク質の免疫沈降と質量分析法を駆使した解析の結果、ZFP541がHDAC1およびKCTD19と複合体を形成することが明らかとなった。KCTD19はPOZ/BTBドメインをもつタンパク質で、ZFP541と同様に精巣に特異的な発現パターンを示す。またKctd19遺伝子を欠損させると、Zfp541欠損マウスと同様に減数第一分裂を完了できずに不妊となることが判明した。さらにChIP-seq解析およびZfp541欠損マウス精母細胞のRNA-seq解析を駆使して、減数第一分裂におけるZFP541の役割を検討した。その結果ZFP541が多くの遺伝子の転写開始点近傍に結合することが判明した。興味深いことに、ZFP541の標的の多くがクロマチン結合因子やヒストン修飾など転写制御に関連するユビキタスなタンパク質をコードする遺伝子であることや、これらが減数第一分裂前期の中盤を境に発現が抑制されることを示唆する結果が得られた。これらの結果から、ZFP541は転写抑制複合体としてクロマチン・エピジェネティクスの制御に関連する遺伝子群の発現を抑制することにより、減数第一分裂前期のプログラムを終結させるように働いていると結論された(図3)。

体細胞系譜ではDNAメチル化、ヒストン修飾、ヒストンバリアント置換、非ヒストンクロマチン結合タンパク質によって半保存的な非ゲノム情報複製が連綿と続いている。これとは対照的に、次世代への遺伝情報の伝達に先駆けて雄の減数分裂では非ゲノム情報が解消される仕組みの一端が本研究で明らかとなった。