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[研究成果] 中西班の研究がNucleic Acids Res誌に掲載されました!

2021.04.22

Nucleic Acids Research (2021年4月19日オンライン版)

Soichiro Kumamoto, Atsuya Nishiyama*, Yoshie Chiba, Ryota Miyashita, Chieko Konishi, Yoshiaki Azuma, and Makoto Nakanishi*. (*責任著者)

HPF1-dependent PARP activation promotes LIG3-XRCC1-mediated backup pathway of Okazaki fragment ligation.

DOI:10.1093/nar/gkab269


岡崎フラグメントの連結を堅牢に保証する分子メカニズム

隈本 宗一郎 (東京大学医科学研究所 癌・細胞増殖部門癌防御シグナル分野 研究員)

西山 敦哉  (東京大学医科学研究所 癌・細胞増殖部門癌防御シグナル分野 准教授)

中西 真  (東京大学医科学研究所 癌・細胞増殖部門癌防御シグナル分野 教授)


発表のポイント

・DNA複製(注1)過程において、岡崎フラグメントの連結が2つのDNAリガーゼ(注2)によって保証されていることを明らかにした。

・未連結の岡崎フラグメントはDNA修復関連因子であるPARP1(注3)とその制御因子であるHPF1の活性化を介してクロマチン結合タンパク質をADPリボシル化(注4)を促進すること、また、これに伴いLIG3-XRCC1経路(注5)がバックアップ機構として活性化することを明らかにした。

・本研究は、岡崎フラグメント連結を保証することでゲノムの安定性を維持する新たなPARP1の機能とADPリボシル化経路の解明につながることが期待される。


発表概要:DNAリガーゼによる岡崎フラグメントの連結は、ラギング鎖合成における重要なステップの一つである。出芽酵母ではDNAリガーゼ1 (LIG1)が複製因子と相互作用することでDNA複製部位に局在し、岡崎フラグメントの連結に不可欠な役割を果たす。しかし、脊椎動物の培養細胞においてLIG1は必ずしも細胞増殖に必須ではなく、LIG3-XRCC1が相補的に働くことが示唆されているが、その分子機構は未だ明らかでなかった。東京大学医科学研究所癌・細胞増殖部門癌防御シグナル分野の西山敦哉准教授と中西真教授の研究グループは、ツメガエル卵抽出液を用いて、LIG1非存在下においてヒストンH3を含む複数のクロマチンタンパク質が強くADPリボシル化されることを見出した。また、ヒストンH3のADPリボシル化を制御するPARP1とその制御因子であるHPF1がバックアップ経路として働くLIG3-XRCC1経路の活性化に不可欠であることを示した。これらの結果は、PARP1-HPF1複合体がヒストンH3のADPリボシル化を介して、岡崎フラグメントの連結を保証することを強く示唆している。現在、これらのADPリボシル化タンパク質が岡崎フラグメント連結にどのような役割を果たすのか、さらに解析を進めている。


発表内容: 細胞分裂に伴う、DNAの複製は生物において最も重要なイベントの1つであり、DNA複製に異常が生じると細胞のがん化や染色体不安定化を引き起こす原因となると考えられている。よって、DNA複製の分子機構を明らかにすることは重要な課題である。

DNA複製において、新生DNA鎖はリーディング鎖またはラギング鎖上に連続的および不連続的に合成され、岡崎フラグメントとよばれる不連続的に合成されたDNA断片が1つにつながることでラギング鎖として合成が完了する。岡崎フラグメントの連結にはDNAリガーゼ1(LIG1)が重要な役割を担っており、LIG1はDNA複製因子と結合することでDNA複製部位に局在することが明らかになっている。一方、意外なことに、脊椎動物の培養細胞では、LIG1は生存に必須ではないことが示されている。このことは、LIG1経路のバックアップシステムの存在を強く示唆しているが、その詳細な分子メカニズムは明らかではなかった。

今回、研究グループはアフリカツメガエルの未受精卵の抽出液に脱膜処理をした精子の核を加えた無細胞系を用いた。この実験系は、通常細胞内でしか起こらない染色体の複製を試験管内で再現することが可能であり、生化学的な解析に優れている。この抽出液からLIG1を除くとゲノムDNA上に未連結の岡崎フラグメントが一過的に蓄積するものの、その後S期の後期に連結されることが分かった。またLIG3-XRCC1とよばれるDNAリガーゼ複合体をLIG1と同時に除去することで、岡崎フラグメントの連結がまったくおこらなくなったことから、LIG3-XRCC1によって岡崎フラグメント連結が保証されていることが明らかになった。さらに、無細胞系を用いた詳細な解析の結果、LIG1除去抽出液では、DNA修復関連酵素の1つであるPARP1と補酵素であるHPF1の活性依存的にヒストンH3を含むクロマチンタンパク質が強くADPリボシル化を受けることが判明した。加えて、PARP1/HPF1の活性は、LIG1非存在下におけるLIG3-XRCC1の保証的な岡崎フラグメント連結に必須であった。PARP1/HPF1はDNA損傷応答時にヒストンH3を部位特異的にADPリボシル化することが近年明らかになりつつあり、岡崎フラグメント連結におけるヒストンADPリボシル化の意義や他のヒストン修飾とのクロストークなどの分子機構解明が期待される。

図1.LIG1非存在下においてLIG3-XRCC1はPARP1/HPF1の活性依存的に未連結の岡崎フラグメントの結合を保証する。

LIG1は岡崎フラグメントの連結を主に担うDNAリガーゼであり、LIG1非存在下においてゲノム上に一過的に未連結の岡崎フラグメントが蓄積する。PARP1/HPF1が未連結のお岡崎フラグメントを認識し、ヒストンH3を含むクロマチン結合タンパク質を強くADPリボシル化を誘導し、LIG3-XRCC1がS期の後期にLIG1のバックアップ経路として働くと考えられる。


用語解説

(注1)DNA複製:細胞分裂して2つ増える前に、DNAが複製されて染色体が2倍となる過程である。2本の親鎖DNAのうち一方を連続的に、もう一方を半不連続的に合成され、それぞれを、リーディング鎖およびラギング鎖とよぶ。ラギング鎖合成では岡崎フラグメントと呼ばれる短いDNA断片が合成および連結され切れ目のないDNAとして完成する。

(注2)DNAリガーゼ:ヌクレオチドの末端同士をリン酸ジエステル結合でつなぐ酵素である。酵母ではLIG1およびLIG4、多くの高等真核生物ではそれらに加えてLIG3が保存されている。生体内では主としてDNA複製とDNA修復に寄与している。

(注3)PARP1:ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ1(PARP1)は、多くの重要なタンパク質のポリADP-リボシル化(PAR化)を触媒する酵素である。近年、PARP1はHPF1とよばれる補酵素と複合体を形成し、DNAダメージ応答時にヒストンをADPリボシル化することが明らかになっている。

(注4)ADPリボシル化: 1つまたはそれ以上のアデノシン二リン酸(ADP)リボースを付加する反応で、タンパク質の翻訳後修飾の一つである。ADPリボシル化は細胞間の情報伝達やDNA修復、アポトーシスなど幅広い細胞機能に関与している。

(注5)LIG3-XRCC1:1本鎖DNA修復経路や塩基除去修復を主に担うDNAリガーゼ複合体。XRCC1はDNA修復酵素の足場タンパク質として働き、PARPが合成するPARを認識してDNAダメージ部位に集積する。