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[研究成果] 岩間班の研究がJ Exp Med誌にアクセプトされました!

2020.10.28

Kuribayashi W, Oshima M, Itokawa N, Koide S, Nakajima-Takagi Y, Yamashita M, Yamazaki S, Rahmutulla B, Miura F, Ito T, Kaneda A, and Iwama A. Limited rejuvenation of aged hematopoietic stem cells in young bone marrow niche. J Exp Med 218 (3): e20192283 (2021)


造血幹細胞の老化メカニズムを発見:若返りには環境の変化のみでは限界があることを実証

岩間 厚志(東京大学医科学研究所 幹細胞分子医学分野 教授)

Kuribayashi W, Oshima M, Itokawa N, Koide S, Nakajima-Takagi Y, Yamashita M, Yamazaki S, Rahmutulla B, Miura F, Ito T, Kaneda A, and Iwama A. Limited rejuvenation of aged hematopoietic stem cells in young bone marrow niche. J Exp Med 218(3):e20192283, 2021.

 

造血幹細胞は骨髄ニッチに存在し、様々な状況においても血液細胞を供給し続けることで造血システムを維持していますが、個体の加齢に伴い、造血幹細胞は内因性・外因性の多様なストレスに曝露され、質的・量的な劣化を呈します。造血幹細胞に焦点を当てた加齢研究はマウスにおいて骨髄移植を用いたモデルを活用し、活発に研究が行われてきました。しかしながら、加齢が造血幹細胞に与える影響の全容は未だ明らかにされていません。近年、従来の骨髄移植モデルに替わって、放射線照射などの前処置を行わずにマウスへ大量の造血幹細胞を移植する移植法が確立されました(Shimoto et al., Blood, 2017)。通常の骨髄移植では前処置によって骨髄ニッチが本来の構造や機能を失ってしまいますが、無処置移植によってレシピエントの骨髄ニッチ環境を正常に維持したままドナー造血幹細胞を移植することが可能となり、今まで不明であった健常な骨髄ニッチが造血幹細胞に与える影響を解析できるようになりました。そこで私たちの研究グループは、20ヶ月齢の加齢マウスから分取した数万個の加齢造血幹・前駆細胞を8週齢の若齢マウスへ放射線照射などの前処置なしに移植しました。2〜4ヶ月の経過観察後、骨髄細胞を回収し解析を行いました。比較対象として10週齢の若齢マウス造血幹細胞の移植も行いました。

生着した加齢造血幹細胞は若齢造血幹細胞と比較して造血細胞を生み出す能力が低く、若齢骨髄においても多能性前駆細胞への分化が持続的に障害されるとともに、分化の方向性が骨髄球に偏っていることが明らかとなりました。以上から、加齢造血幹細胞は若齢骨髄ニッチに移されても、その幹細胞機能は改善しないことが分かりました(図1)。次に、RNAシークエンス解析をを実施しました。その結果、加齢造血幹細胞と若齢造血幹細胞の遺伝子発現プロファイルには明らかな違いが認められましたが、若齢骨髄ニッチに移植された加齢造血幹細胞は若齢の遺伝子発現パターンに大きく戻ることが明らかとなりました。本移植実験系において可逆的に変動する加齢関連遺伝子は、代謝に関連する遺伝子が多く含まれており、加齢に伴う造血幹細胞の代謝性変化は骨髄ニッチの変化に大きく依存する可能性が示唆されました。

最後に、加齢関連遺伝子の発現制御に重要であるDNAメチル化の変化を、全ゲノムバイサルファイトシークエンスで解析しました。造血幹細胞の加齢に伴うDNAメチル化の変化は、造血幹細胞の機能変化に大きく寄与することが知られています。しかし、加齢に伴うDNAメチル化変化は若齢骨髄ニッチ環境によっても若齢のパターンに戻ることはありませんでした。つまり、加齢に伴う造血幹細胞の機能低下に、トランスクリプトームの変化よりもエピゲノムの変化の方がより大きく寄与しており、このような変化は骨髄ニッチに依存しないことが示唆されました。

本研究において、造血幹細胞の加齢に伴う細胞内変化は骨髄ニッチの状態に関わらず強固に保持されることが示されました。さらに、このような加齢に伴う造血幹細胞の機能低下には、遺伝子発現変化よりもエピゲノム変化の方が不可逆的な変化としてより大きく寄与していることが明らかとなりました。今後さらに詳細な解析を行うことで、加齢に伴う造血幹細胞の機能に不可逆的な影響を与えるメカニズムが明らかになると期待されます。