内在性レトロウイルスによる宿主ゲノムのクロマチン再構築機構
研究内容
内在性レトロウイルス (Endogenous RetroViruses: ERVs) は、生物進化の過程で宿主ゲノムに 組み込まれたレトロウイルス感染の痕跡であり、宿主の進化および生物多様性の獲得に重要な機 能を果たしたと考えられています。ERVs は宿主の転写機構を利用した転移活性により、ゲノム上の 多数の箇所で数百コピー以上散在しています。この特性から、ERVs は宿主のゲノム構造を破壊す る変異原として機能しうるため、ほとんどの体細胞組織では DNA メチル化および抑制的ヒストン 修飾を介して強固な不活性化を受けることが知られています。一方で、生殖巣および胎盤といった 特定の組織において ERVs の転写活性がむしろ亢進しており、私はこの生理的意義に着目してい ます。実際に、精巣において ERVs の転写が宿主細胞の分化・発達および機能維持に重要な役割 を持つことを報告しています (論文 3, 4)。興味深いことに、本研究で対象とする受精後の初期発生 においても多様な ERVs の発現惹起が観察されております。中でも MERVL は全能性をもつ 2 細 胞期胚特異的に高発現する ERVs の 1 種です。これまで MERVL はその発現細胞が全能性を保 有するかどうか識別するための「全能性マーカー」として繁用されてきましたが、その機能的意義は 技術的な制約により未解明でした。本研究では、独自に開発した多コピー遺伝子解析技術を用い ることで、初期発生における MERVL の機能解明を目指します。特に、全能性期特異的な MERVL の発現がその後の個体発生プログラムを担保する高次クロマチン構造の構築に寄与すると想定し、 この機能に着目して研究を展開します。本研究の遂行により、MERVL の転写制御という新たな観 点から、初期胚発生に伴う宿主ゲノムのクロマチン複製とリモデリング機構の新たな制御モデルが 提唱できることが期待されます。
主な論文
1. Sakashita A., et al., Namekawa SN. (4 人中 1 番目) Bioinformatics pipelines for identification of super-enhancers and 3D chromatin contacts. Methods Mol Biol. In press
2. Sakashita A., et al., Namekawa SN. (3 人中 1 番目) CRISPR-mediated activation of transposable elements in embryonic stem cells. Methods Mol Biol. In press
3. Sakashita A., et al., Namekawa SN. (11 人中 1 番目) Endogenous retroviruses drive species-specific germline transcriptomes in mammals. Nat Struct Mol Biol. 10 (2020)
4. Maezawa S., Sakashita A., et al., Namekawa SN. (10 人中 1 番目; Co-first) Super- enhancer switching drives a burst in gene expression at the mitosis-to-meiosis transition. Nat Struct Mol Biol. 10 (2020)
5. Sakashita A., et al. Kono T. (8 人中 1 番目) XY oocytes of sex-reversed females with a Sry mutation deviate from the normal developmental process beyond the mitotic stage. 100 Biol Reprod 100 (2019)