多能性を規定するエンハンサーループの維持と再構築機構の解明
研究内容
造血幹細胞や多能性幹細胞に代表される「幹細胞」は、自己複製と分化能という２つの性質を持ちます。自己複製を続ける幹細胞が分化細胞へと転じるには、それまで維持していた「非ゲノム情報」を迅速かつ正確に変換する必要があり、胚性幹細胞(ES細胞)の場合、OCT4をはじめとする転写因子の結合パターンが多能性の維持に不可欠です。一般に、転写因子が結合するエンハンサー領域は、三次元的なループ構造を形成し、細胞分裂後もその形状が維持されると考えられています。しかしながらES細胞においては、OCT4に依存するループ構造は自己複製時には堅牢に維持されながらも、細胞分化に応じて柔軟に変化しなければなりません。ループ構造の制御には、幹細胞特異的な高次クロマチン構造の変化が関与すると考えられていますが、その分子メカニズムについてはよく分かっていません。そこで本研究では、幹細胞特異的な「エンハンサーループ」を非ゲノム情報として捉え、その継承と分化時における再構築機構の解明を目的とします。本研究では、これまでの2次元的な実験結果を踏まえて、高次クロマチン構造解析に発展させ、転写因子の結合、配置、解離のタイミング、そして分化における再配置を調節する分子機構の解明を目指します。
主な論文
1) *Akiyama, T., et al. (9人中1番目) Synthetic mRNA-based differentiation method enables early detection of Parkinson’s phenotypes in neurons derived from Gaucher disease-induced pluripotent stem cells. Stem Cells Trans Med. 4, 572–581 (2021)
2) *Akiyama, T., et al., *Ko, MSH. (11人中1番目) Transient ectopic expression of the histone demethylase JMJD3 accelerates the differentiation of human pluripotent stem cells. Development 143, 3674-3685 (2016)
3) Akiyama, T., et al., *Ko, MSH. (11人中1番目) Transient bursts of Zscan4 expression are accompanied by the rapid derepression of heterochromatin in mouse embryonic stem cells. DNA Res. 5, 307-318 (2015)
4) Akiyama, T., et al., *Aoki, F. (4人中1番目) Dynamic replacement of histone H3 variants reprograms epigenetic marks in early mouse embryos. PLoS Genet. 7, e1002279 (2011)
5) Akiyama, T., et al., *Aoki, F. (3人中1番目) Inadequate histone deacetylation during oocyte meiosis causes aneuploidy and embryo death in mice. Proc Natl Acad Sci U S A. 103, 7339-7344 (2006)