組織・研究内容

神経幹細胞の全発生過程における非ゲノム情報制御の重要性の解析

研究代表者

岸 雄介

Yusuke Kishi

東京大学定量生命科学研究所・准教授

研究内容

幹細胞は、発生初期には自己複製によりその数を増やし、あるタイミングになると分化細胞を産生します。すなわち、複製・維持されている非ゲノム情報を、あるタイミングで変換することで、適切な組織を構築することができます。
大脳を構築する大脳神経幹細胞は、エピブラスト(胚盤葉上層)から誘導された外胚葉が神経板となり、続いて管状の神経管を形成し、そして最も前側に位置する神経上皮細胞から分化します。このダイナミックな分化過程は、マウスだと胎生6日目(E6)からE10のわずか4日間で起きます。そして、大脳神経幹細胞はE11くらいからニューロンを、そして出生前のE18くらいからグリア細胞であるアストロサイトを産生して、出生後に機能する大脳を構築します。この神経幹細胞の運命転換のタイミングは厳密に制御される必要があります。例えば増殖期からニューロン分化期への移行のタイミングが遅くなると、神経幹細胞の数が過剰になって脳が異常に大きくなる可能性があるからです。実際に、このタイミングの制御異常で自閉症などの発達性神経疾患を発症することが近年の研究でわかってきました。しかしながら、次々に起こる神経幹細胞の運命転換のメカニズムにはいまだ謎が多く残っています。そこで本研究では、神経幹細胞の全発生過程において、非ゲノム情報であるオープンクロマチン領域やヒストン修飾が複製・維持あるいは変換するメカニズムを包括的に明らかにすることを目指します。

主な論文

1. Eto, H. and *Kishi, Y. (2人中2番目). Brain regionalization by Polycomb-group proteins and chromatin accessibility. BioEssays, 43(11):e2100155 (2021)
2. Eto, H., *Kishi, Y., et al. (7人中2番目) The Polycomb group protein Ring1 regulates dorsoventral patterning of the mouse telencephalon. Nature Communications, 11:5709 (2020)
3. Sakai, H., et al., *Kishi, Y. (6人中6番目) Plag1 regulates neuronal gene expression and neuronal differentiation of neocortical neural progenitor cells. Genes to Cells, 24(10):650-666 (2019)
4. Tsuboi, M., *Kishi, Y., et al. (6人中2番目) Ubiquitination-independent repression of PRC1 targets during neuronal fate restriction in the developing mouse neocortex. Developmental cell, 47, 758–772 (2018)
5. Kishi, Y., et al. (4人中1番目) HMGA regulates the global chromatin state and neurogenic potential in neocortical precursor cells. Nature Neuroscience, 15, 1127-1133 (2012)