組織・研究内容

エピゲノム情報としてのグアニン4重鎖の形成と複製開始における役割と生物学的意義

研究代表者

正井 久雄

Hisao Masai

公益財団法人東京都医学総合研究所 基礎医科学研究分野・所長

研究内容

代表的な非B型DNA構造であるグアニン4重鎖(G4)構造は、生物種を問わず普遍的に存在します。最近、その細胞内での存在も証明され、生物学的機能も次々と報告されています。G4はゲノムに内蔵されるが、配列ではなく、形成する核酸形態が重要な役割を果たします。G4の形成と崩壊は、細胞内の環境(イオン、分子混雑、エピゲノム)や、生体内でダイナミックに変動している可能性があり、これまで見逃されている重要な非ゲノム情報であると言えます。G4は、転写プロモーターの近傍に濃縮されて存在することが知られていましたが、DNA複製起点の近傍にも存在することが明らかとなり、複製開始への関与が示唆されました。私たちは長年にわたるDNA複製の制御機構の研究から、G4が複製を抑制するクロマチン形成の拠点として機能することを発見しました。また、大腸菌染色体複製をモデルとした研究から、RNA-DNA ハイブリッド上に形成されるG4が複製開始に重要な役割を果たす可能性を見出しました。本研究では、非ゲノム情報としてのG4/RNA-DNA hybridの細胞内でのダイナミックな形成が、DNA複製開始を制御するメカニズムを解明し、その生物学的意義・進化的意義を検証します。さらに、このメカニズムが生物種を超えて機能する可能性・普遍性を検証します。そして、この研究から明らかになった複製開始に必要なユニットを組み合わせ、合成生物学的手法により、複製開始を最小要素から再構成することに試みます。また、G4/RNA-DNA hybridを認識するプローブを用いて、ゲノム上G4シグナルを網羅的に解析し、細胞内のダイナミクスを可視化し、複製開始や転写のシグナルとの相関を解析します。

主な論文

1. Kanoh, Y., et al., *Masai, H. (11人中11番目) Rif1 binds to G-quadruplexes and suppresses replication over long distances. Nature Struct Mol Biol 22, 889-897 (2015)
2. Yang, C-C., et al., *Masai, H. (11人中11番目) Claspin recruits Cdc7 kinase for initiation of DNA replication in human cells. Nature Commun 7, 12135 (2016)
3. Yang, C-C., et al., *Masai, H. (4人中4番目) Cdc7 activates replication checkpoint by phosphorylating the Chk1 binding domain of Claspin in human cells. E-life 8, pii: e50796 (2019)
4. *Masai H. et al. (4人中1番目) Detection of cellular G-quadruplex by using a loop structure as a structural determinant. Biochem Biophys Res Commun, 531, 75-83 (2020)
5. Yoshizawa-Sugata N, et al., *Masai H. (4人中4番目) Loss of full-length DNA replication regulator Rif1 in two-cell embryos is associated with zygotic transcriptional activation. J Biol Chem 297, 101367 (2021)