研究課題名
ゲノム情報の複製正確性維持機構と非ゲノム情報維持反応のクロストークの解明
研究内容
DNAの正確な複製は全ての生物にとって必須の反応です。DNA複製の正確性は、主にDNA合成酵素の正確性に依存していますが、これに加えて複製の誤りを修復する「ミスマッチ修復」が重要な役割を担っています。ヒトにおいてミスマッチ修復が欠損すると、変率が上昇し、きわめて高頻度にがんを発症することが分かっています。興味深いことに、ミスマッチ修復の効率はクロマチンの状態によって異なることが報告されています。つまり、非ゲノム情報は、クロマチン上でのミスマッチ修復に影響し、ゲノム情報の複製正確性を変えると考えられます。我々のグループでは、ツメガエル卵抽出液を用いてミスマッチ修復がクロマチン上で機能するしくみを解析し、クロマチンリモデリング因子Smarcad1とヒストンシャペロンFACTがクロマチン上でのミスマッチ修復を補助することを発見してきました。さらに、これらの因子は、ミスマッチ塩基周辺のヌクレオソームを広範囲に「排除」するために機能していました。この発見は、1)ヒストン修飾などの非ゲノム情報は、Smarcad1やFACTなどによるミスマッチ修復補助の効率に影響するのではないか、2)ヌクレオソームの排除はミスマッチ周辺の非ゲノム情報の維持に影響するのではないか、という2つの興味深い可能性を示唆します。我々は、ミスマッチに依存したヌクレオソームのリモデリング過程を精製タンパク質によって試験管内再構成し、Smarcad1とFACTがそれぞれ異なるステップに機能する事を見いだしました。本研究では、ツメガエル卵抽出液と精製再構成系を利用し、ゲノム情報と非ゲノム情報の複製正確性がミスマッチ修復を介して相互に影響するメカニズムを解明します。
主な論文
- Terui, R., Nagao, K., Kawasoe, Y., Taki, K., Higashi, TL., Tanaka, S., Nakagawa, T., Obuse, C., Masukata, H., *Takahashi, T.S., Nucleosomes around a mismatched base pair are excluded via an Msh2-dependent reaction with the aid of SNF2 family ATPase Smarcad1. Genes Dev 32, 806-821 (2018)
- Kawasoe, Y., Tsurimoto, T., Nakagawa, T., Masukata, H., *Takahashi, T.S., MutSα maintains the mismatch repair capability by inhibiting PCNA unloading. eLife 5, e15155 (2016)
- Higashi, T.L., Ikeda, M., Tanaka, H., Nakagawa, T., Bando, M., Shirahige, K., Kubota, Y., Takisawa, H., Masukata, H., *Takahashi, T.S., The prereplication complex recruits XEco2 to chromatin to promote cohesin acetylation in Xenopus egg extracts. Curr Biol 22, 977-988 (2012)
- *Takahashi, T.S., Basu, A., Bermudez, V., Hurwitz, J., *Walter, J.C., Cdc7-Drf1 kinase links chromosome cohesion to the initiation of DNA replication in Xenopus egg extracts. Genes Dev 22, 1894-1905 (2008)
- Takahashi, T.S., Yiu, P.Y., Chou, M.F., Gygi, S., *Walter, J.C., Recruitment of Xenopus Scc2 and cohesin to chromatin requires the pre-replication complex. Nat Cell Biol 6, 991-996 (2004)